NOUTEN QUEST Ⅱ⚡️

過ぎ去りし時を乗り越えてS

私が尊敬したい人

中学生の頃から自分の生まれ育った街で美容師をやっているおっちゃんがいる。

 

美容室なんてそんな洒落たところに勧んで行ったわけではなく、小学生の頃からお世話になっていた床屋のおばあちゃんが体調不良のためにお店を閉めてしまったことがあって、代わりにいける場所が当時オープンしたばかりのその美容室だった。

 

はじめは緊張していて終始無言でいることも多かったが、次第に打ち解けていって大人になった今では一緒にお酒を飲むようになったほどである。

 

いろいろ話を聞いてみるととても仕事に熱い人であることが感じられた。

 

何よりもお客さんにとって何が必要かを考えていて、こちらが注文をしなくても満足のいくスタイルに仕上げてくれる。

 

簡単に言ってしまうが、私は髪質が柔らかく、細毛であったこともあり、ヘアーワックスで髪型を決めたくてもベタっとなってうまく立てられないのが悩みであった。

 

もうすく高校生にもなるし私の気持ちにその美容師のおっちゃんは気づいてくれたのだ。

 

そんなこと当たり前のように思われてしまうが、他の美容室に行くと流行りの髪型を参考に仕上げてくれるが、やはりこの場所でカットしてもらう方がかっこいいと言われるのである。

 

このような流れでこの美容室はリピーターが多い。何よりもおっちゃんにカットやカラーをしてもらいたくて遠くに引っ越した人もわざわざ来るのである。

 

一緒に飲んだ時におっちゃんはこのようなことを話していた。

 

「美容師の仕事はもともとは外科の医者の仕事だったんだ。人様の体に刃を向けることができる仕事は医者くらいなものでしょ?だから俺たちはお客さんの体を好き勝手に切り刻んでるわけじゃないんだ。ちゃんとお客さんの要望に答えられない美容師は美容師ではないと思っている」

 

紛れもないプロの言葉だと思った。

 

コロナ禍でもリピーターのお客さんからの予約で埋まっているようで、むしろ新規のお客はいらないくらいだよ笑と話していた。

 

「でもね、俺はこの仕事をしていて1番うれしいのはお客さんのいろんな話が聞けることなんだ。こんな田舎の片隅に美容室をやっている俺だけど、お客さんからの話で本当に知らないことがたくさん知れるもの。それが何よりも嬉しいしやりがいなんだよ。」

 

このおっちゃんの言葉は私の心を大きく打った。

 

大きな組織にいれば良いというわけでない。人様から知られている仕事をすれば良いというわけではない。何よりも一番の価値は人にあるということだ。仕事を変えたらもう少し大きな人間に変われるなんて考えてしまう自分を見つめ直すきっかけにもなった。

 

職種なんて関係ないのだ。そして社会は人と人とのつながりということなのだ。

 

おっちゃんが若い時はバブル期の真っ只中だ。それでも仕事で大切なのもはお金だけではないんだろうと、上手くは言えないが私は感じた。

 

古い時代を生きた大人なんて噛み合わないなんて以前は思っていたが、はじめて私は尊敬できる大人が身近にいたことに気付いたのである。